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中国伝統音楽


春江花月夜 chun1 jiang1 hua1 yue4 ye4

音声

試聴は

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この曲は 決定版 中国名曲集 に収録されている

作品説明

(この文章はhttp://www.nurs.or.jp/~tensho/sakuhin.htmlから転載したものです。著作権は本サイトが保有しません。)

春江花月夜 chunjiang huayueye 古曲

●歴史●

もともとは《夕陽簫鼓》という伝統的な琵琶曲で,明朝(1368-1644)の虞世南という人が作ったとされてます。いまは楽譜の抄本(写し)しか残っていませんが,その一番古いものは清朝末期のもので,2系統あります。

一つは無錫の呉エン(田+宛)卿譜の《夕陽簫鼓》(1875),もう一つは平湖の李芳園譜の《濤陽琵琶》(1895)です。前者は6段+尾声(コーダ)で,標題はついていません。後者は10段で,一つ一つに標題がついてますが,現在のものとは異なってます。

中国ではちょうどラストエンペラー溥儀の前の皇帝が即位したばかりで,日本では明治8年・12年に当たります。

のち,後者の譜面を李芳園の教え子がさらに改変し,上海の大同楽会(中国初のアマチュア民族楽団)の柳堯章と鄭覲文(テイ キンブン)が,この譜面をもとに,簫・笛・二胡などを加えて民族管弦楽曲に編曲しました。時は1925年,中国はすでに中華民国となり,日本ではそろそろ大正時代が終わりかけているころでした。

中華人民共和国成立後(1949~),各版本の整理がすすみ,さらに大型の合奏曲に編曲されました。今回の天昇楽団の譜面は,放送楽団の彭修文編曲のものを使用しております。

民楽合奏のほか,更にピアノソロや木管五重奏,弦楽合奏,交響詩などにも編曲されており,国内外で愛されている曲だということです。

●構成と構成上の特徴●

全曲は10段で構成され,各段に標題が付されてます。

一 江楼鐘鼓  二 月上東山    三 風回曲水  四 花影層台  五 水深雲際 六 漁歌晩唱  七 洄(回)瀾拍岸 八 棹鳴遠籟  九 欸乃帰舟  十 尾声

よく,「10巻の絵巻物をみるようだ」と例えられるくらい,美しい曲です。 ふつう,三・八段はカットされて演奏されるそうで,天昇もそうしました。

10段の楽曲に統一性・一体感を持たせるため,春江は構成上にいろいろな工夫が凝らされています。その主なもの2つを挙げてみましょう。

  (1)各段とも,終わりは常に同じフレーズ    →これは伝統的な民間音楽によくみられる構造で,「換頭合尾」といいます。

  (2)フレーズの出だしの音を,その前のフレーズの末尾の音と同じにする    →これは「承逓」という手法です。

●各段の標題と曲想●

「一 江楼鐘鼓」 長江のほとりの鐘鼓楼(ときをつげる鐘と鼓が安置されているやぐら)が 沈みゆく夕陽を送るようにひとしきり時を告げ,やがて優雅な簫の音が静謐な黄昏時を出迎える。 そして糸竹楽器(弦楽器と管楽器)が加わって,叙情的かつ典雅な美しい主題を奏でるが,この旋律は,西に傾いた夕陽,江上に浮かぶ小舟,簫声と鼓声がひびきあう情景を美しく描き出している。

「二 月上東山」「三 風回曲水」(略) 主題の音程が4~5度高くなることでゆるやかな上昇感が生まれ, それによって月が徐々に東山に「昇って」いくイメージを表現している。

「四 花影層台」 まず6小節のゆるやかなメロディのあと,それと好対照をなす琵琶の華やかなソロがかき鳴らされる。 にわかに長江を渡る風がまきおこって岸の草花を揺らし,その影が水面に折り重なるように照り映えるさまを描写している。

「五 水深雲際」 二胡・中胡(・低胡)・琵琶等により厚みのある低音の調べが進行する。長江のみなもを寄せて返すなみが,連綿とうねりを作って静かに広がる様子を連想させる。 つづいて,琵琶が悠然と,透明感あふれるハーモニクスを奏で,そこに天際と水際が一対にまじりあい,朦朧と広がる長江の夜景が自ずから浮かび上がってくるのである。

「六 漁歌晩唱」 簫と琵琶がリズム感あるメロディで先行し,そのあとに楽隊が加わるモチーフが繰り返される。あたかもこぎ手が櫨を操りながら先導して歌い,それに漁師たちが悠然と唱和する情景を想起させる。 各フレーズの休符ごとに木魚や琵琶が軽く一音を響かせ,この両者の掛け合いに何とも言えない味わいを加えている。

「七 洄(回)瀾拍岸」「八 棹鳴遠籟」(略) 冒頭から琵琶の激しい「掃」から始まる。力強く,次第に速度を速めてかき鳴らされる「掃」は,まるで漁船が水を左右にかき分けて推し進み,それによって生じる波が岸まで伝わって砕け散るさまのようだ。 つづいて楽隊が雄壮なメロディを奏で,最後は古箏の力強いグリッサンドでしめくくる。 無数の舟が競い合って帰途を急ぎ,それによって巻き起こる波濤が次々と岸へと打ち付けられていくさまを表現している。

「九 欸乃帰舟」 琵琶の「輪奏」から始まり,つづいて高く低くと起伏に富んだメロディが,遅→速/弱→強/(楽器が)少→多,と次第に変化することで,緊迫感と力強さを増す。 岸に帰る舟が水をかきわけ,波が飛び散り,櫨をこぐときのかけ声とともに遠方からこちらへと,次第に近づいてくる様を描写する。ここで,楽曲のクライマックスに達するのである。

「十 尾声」 舟影が遠くのみなもへと次第に姿を消し,春の長江はよりいっそう静けさを増す。 ゆるやかにたゆとう旋律のなかに,大鑼の一打がいんいんと響き,まさに   江天一色無絨塵,皎皎空中孤月輪  (唐・張若虚の詩「春江花月夜」の一節) というべき美しい境地が現出し,いつまでも消えぬ余韻となって残るのである。

※演奏データ: ・とにかく琵琶の方の負担が重いです。 ・各段の間・フレーズの間のメロディの受け渡しに注意。ばたっ,と変わるのではなく,連綿とスムーズに。そのため,自分が入るときは前の人のメロディにのって,うまく入らなければなりません。 ・標題音楽ということで,各曲の曲想をきちんと理解し,情景を想像しながら演奏することがポイントです。 ・最後のクライマックス,みなでテンポ感を合わせながらクライマックスまで持って行くのが至難の業。楽器が加わるごとに,テンポ・強さをワンランクずつアップさせていくのがコツだそうです。その加わり方も,加わったことがわからないくらいタイミングよく入らなければ・・・ ・まあ,とにもかくにも,今回の演奏会で一番難しい曲でした。

※出典データ: ・彭亜娜・王俊・楊建編著『音楽芸術欣賞教程』(中南工業大学出版社 1997)152頁~ ↑この本,作りは安っぽいけど,春江の解説は譜例まで載せてとても詳しかったです。

・李民雄『民族器楽概論』(上海音楽出版社 1997)330頁~ ・上海音楽出版社編『中国音楽欣賞手冊 続集』(上海音楽出版社 1989)235頁~